もし非モテの大学生が藤沢数希の「ぼく愛」を読んだら #2:思春期
※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などは関係ありません。
「ごめんなさい。部活があるので。」
豊知工業高校は男子校とは言え、愛知県では名門の野球部ということもあり他校の女子からも人気だった。
女子は「甲子園を出場する(目指す)彼氏」と付き合っている自分が可愛いだけだ。もしくは友達に自慢したいという理由で野球部員の連絡先を聞きたがる。
丸坊主で泥だらけで練習ばかりで遊ぶこともままらない野球部と付き合うメリットなんて他にない。
お世辞にも「イケメン」と呼ばれるほどの容姿を持ち合わせていなかった隆史でも、1度だけ部活が休みの日にカフェデートした女子から告白されたことがある。
隆史は「硬派がかっこいい」と思っていた。
甲子園を目指すと決めたら恋愛なんてしている暇はないと思っていた。
だから「気持ちには答えることができない」と断わざるを得なかった。
高校三年間、文武両道を貫き通して豊知工業高校を卒業した五十嵐隆史(いがらし たかし)だが、自身の童貞は卒業できないまま大学進学を迎えることとなった。
野球部を引退した隆史は、やっと羽が生えた思いで坊主だった髪型も変え、禁止されていた眉毛の手入れも欠かさず行うようにした。
今まで我慢していた反動が大きかった分、急にモテたくなってしまったのだ。
彼女が欲しい。セックスがしたい。
恋愛のブランクが空いているどころではなく、今まで隆史には彼女がいたことがない。
心は「思春期」真っ只中だった。隆史は溜まりに溜まっていた。
他校の女子からちやほやされていたために変なプライドまでを持ってしまい、自分とは身の丈に合わない「容姿レベルの高い女子」しか好きになれなくなっていた。
童貞のくせに。
同じ塾に通っていた清楚系女子に告白するものの、あっけなく振られる。
その時は「ごめんなさい。受験があるので。」と、あたかも以前自分が言っていたセリフで断られた。
その清楚系女子からすると、本当はすれ違う度に胸と太ももに突き刺さる隆史の視線がただただ気持ち悪かったのである。
振られたショックは大きいものの、とにかく「彼女が欲しい。セックスがしたい」気持ちは抑えることができなかった。
以前、一度告白してくれた女子はきっとまだ自分のことが好きだろう。そんな根拠のない自信を持って送ったLINEは未読スルーされた。
Googleで調べた方法でスタンプのプレゼントを送ってみようとしたが、それさえも叶わなかった。
ブロックされていたのだ。
世の女性というものは年齢にかかわらず冷酷だ。
もう甲子園を逃した野球部員に特別な興味を示さない。
女子の中では「見えない新しい猿山」が出来上がっているのだ。
その山での隆史のポジションは高くない。
「大学デビューしかない」
隆史が甲子園の次に目指したのはプロではなくモテだった。
つづく
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◆著者ヒロ
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◆藤沢数希所長の著書「ぼく愛」シリーズ
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