もし非モテの大学生が藤沢数希の「ぼく愛」を読んだら #4:課題図書
※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などは関係ありません。
「DMありがとうございます。大学2年の五十嵐隆史と申します。」
隆史はヒロからDMを受けてから数千にもわたる過去ツイートを遡って読み返していた。
当事者は特定できないものの、明らかに女性と来たラブホテルの写真が定期的にアップロードされている。
「即」?「スト値」?これら何を指す単語なんだ?
隆史は好きな女子に送るが如く、自分の今までの非モテぶりを長々とヒロにDMした。
年齢=童貞であること、もてたくて赤学に入学したこと、結局彼女もできないまま今を迎えてしまっていることを。
「長いね笑」
DM送付後、間も無く来たヒロからの返信に隆史は何か悪いことをしたかのように少し「どきっ」とした。
しかし、その緊張は続いて送られて来たメッセージですぐに忘れ去られることとなった。
「モテることなんて簡単だよ。」
簡単?いやいやいや、簡単だったらこの歳まで彼女ができないわけがないじゃないか。
人は自分ができないことや、自覚している課題について他人から指摘されると最初は「否定」の感情から入ってしまうことがよくある。
そういう自分を認めたくないからだ。
隆史は厳しくも優しい両親の元、「文武両道」を掲げて真面目にで育って来た。
イヤラシイ言い方になるが、幼少時から何をやってもそこそこできるタイプだったのだ。
成績優秀で礼儀正しい野球部員。
「モテない」という事実以外に大きな壁にぶつかったことなどほとんどなかった。
「この本を一冊読むだけで隆史くんの世界が180度変わるよ」
そういって送られて来たURLを開くとAmazonのページへ飛んだ。
「ぼくは愛を証明しようと思う」という、夜景の中に高層ビルが並んでいる表紙の本だ。
文庫本が中古で514円から売られている。
学生でお金がないとは言え、514円でモテるようになるのであれば安いものだ。
騙されたつもりでも即購入だ。
「まずはその本を一度読んで見て、読み終わったらまたDMを送って来なよ^^」
本が届くまでの2日間、わずか牛丼の並盛り定食ぐらいの金額でこんな楽しみを買えるなんて思ってもいなかった。
そして「俺はモテるようになる!」という妄想だけが隆史の中で膨らんでいった。
本が届いたその日、隆史は大学をサボった。
学校で指定されて今まで読んで来たどんな課題図書よりも早く、そして血眼になって「ぼく愛」を読み終えた。
20歳の秋、こうして隆史は「恋愛工学」と出会ったのだ。
つづく
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◆著者ヒロ
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◆藤沢数希所長の著書「ぼく愛」シリーズ
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